労働者協同組合法の施行から1年
昨年10月1日の労働者協同組合法施行から1年。日本労働者協同組合連合会(ワーカーズコープ連合会)古村伸宏理事長は、「協同労働への希望を具体化していくためには、人々の『実感』として協同労働が語られ、言葉になっていかなければ」との談話を発表しました。
協同労働の実感から希望を語る
ワーカーズコープ連合会 古村伸宏理事長が談話

多種多彩な分野、テーマで
労働者協同組合法が施行され、1年が経過しました。立ち上がった労働者協同組合は59法人となり、私たちを含む2つの連合会も設立されました。

この1年は、法の周知と立ち上げの支援に奔走してきましたが、ようやく労働者協同組合の存在が知られはじめています。特に、厚生労働省や多くの都道府県が、予算を措置して周知・広報に尽力し、社会的な制度として期待し活用を呼びかけています。このことは、単なる法人格の一つとして労働者協同組合が存在するのではなく、公益に資するしくみとしての位置づけが始まったと言えます。
また、立ち上がった労働者協同組合は、私たちの想像をはるかに超える多種多彩な分野やテーマを事業領域としています。さらに立ち上げた人々も多様であり、中でも複業(副業)的な働き方で参加する人の多さが目立ちます。
そのことは、働くという行為が、所属を単一とする企業本位のあり方から変容し、マルチな働きを複数の所属を持ちながら磨いていくという、一人ひとりにとっての多様性の発露として捉えることもできます。
新しい実践者に刺激を受け
地域づくりの実例が
スタートアップの1年は、労働者協同組合のしくみと働き方に関する理解を着実に進めてきました。イメージがわきづらいという声が、法の立法過程や実践例に触れることで、期待と希望の声に変わってきたことを実感します。
事業の面では、ニッチ(すき間)な仕事のイメージから地域の課題解決と魅力づくりという、地域づくりのど真ん中をテーマとするものへと実例が広がっています。
しかも、フリースクールから放課後等デイサービス、地域のことをなんでもこなすよろず屋、環境問題から食の安全など、一つのテーマから複数の事業が構想される、マルチな事業展開が表れています。
また働き方や運営・経営の面でも、設立時の合意形成がその後の意見反映に大きく影響することや、意見が折り合わずメンバーの入れ替えに直面した事例など、実際に始めた人たちの語る言葉がリアリティを高めており、「主体性」「当事者性」というコンセプトの持つ意味とその形成プロセスの重要性を物語るものとなっています。
未来ビジョン
こうした中で、パイオニアを自負する我が連合会の従来からのメンバーの中にも、少しずつ変化が起ころうとしています。法制定までの成功物語に安住せず、新しい実践者に刺激を受け、さらなる本質へと迫る運動の必要性が認識されています。
法施行時に呼びかけた「協同労働の探求者たろう」という精神は、新たな仲間の登場によって高まってきています。それを端的に表したのが、法人連合会創立総会で決議された「ワーカーズコープ未来ビジョン2023」です。
覚悟を持って「協同労働の探求」を
法令遵守に努める
こうした1年の中で、我が連合会の中心的な存在として事業・経営・運動をけん引してきたワーカーズコープ・センター事業団による、いくつかの自治体・公共事業をめぐる不正な行為が発覚し、今なお原因究明と再発防止、業務の改善と組織の改革に腐心する日々が続いています。
これを一つの組織の行為として他人事(ひとごと)にすることなく、連合会の会員全体が緊張感をもって、法の遵守(じゅんしゅ)(コンプライアンス)に努めることを、重く受け止め合わなければなりません。
真摯(しんし)で謙虚に事態を受け止め、その原因をあらゆる面から検証し、ここから何を教訓とし、何を改革していくべきかについて、最大限の努力が求められます。そのためにはしっかりと時間をかけ、全組合員が参加し改革にあたる必要があります。
そしてこの改革を全会員の教訓とし、これまで以上の覚悟を持って「協同労働の探求」を深めなければなりません。そのカギはおそらく、全面的に「組合員主権」を貫くという観点だろうと思います。もう一度原点に返り、一人ひとりの組合員、一つひとつの現場から「協同労働」を探求し直していく改革を、連合会全体の取り組みとし、新しい労働者協同組合の教訓として伝えていく責務を果たし合いたいと思います。
社会的認知を
一方でセンター事業団の事態は、すべての労働者協同組合にとっての共通の探求テーマを明示していると思います。それは、協同組合一般に考えられている「組合員を中心に据えたガバナンス」に徹しきる。と同時に、一般企業や組織における業務執行のマネジメントも協同組合らしいものに近づける探求です。
働く組合員が話し合い、その意見を反映するという労働者協同組合の基本原理は、企業経営や事業運営において揺るぎなく探求されてこそ、「新しい働き方」として社会的な認知を受けることになります。
協同労働のガバナンスとマネジメントは、絶えざる探求を続けることにこそ価値があります。また、絶えず変化を前提とし、変化に価値をおくということにも関わっている探求だろうと思います。
明るさや楽しさの原動力と
実践から質高めて
この1年は、労働者協同組合というしくみの理解と運用が広がる一方で、協同労働というあり方や精神性・文化を育む上での葛藤が明らかになってきました。センター事業団も、温かい励ましと厳しい指摘が混在する中にあります。
労働者協同組合というしくみは公になったばかりであり、常に実践の中から質を高めていかなければいけません。同時に、協同労働への漠然とした希望を具体化していくためには、人々の「実感」としての協同労働が語られ、言葉になっていかなければなりません。
人も組織も生き物ですから、生きる速度や命のスピードが必ずあります。社会を覆う危機的な事態は深刻化の一途をたどっており焦りはありますが、だからこそ危機の本質に迫ろうとする努力は、決してイベント的な単発のアクションではなく、日常の所作の中での小さな積み重ねの継続が求められます。
意見反映とは……
労働者協同組合法の施行は、この1年で間違いなく社会に波紋を起こしました。しかしそれは、まだまだ小さく弱い波です。しかしこの波紋は、命を尊び、そのつながりに価値をおき、その働きに社会の持続可能性をかける時代へと波及していくに違いありません。一喜一憂せず、‟雄々しい力”にひるまず、成果も困難もしなやかに取り込み、小さき力の「協同の働き」を職場と地域に根付かせ、一つずつ「協同の実感」を重ねていきたいと思います。
協同労働の探求は、小さな一人ひとりの組合員の光と数多(あまた)の命の尊さを、目の前の今から感じ、語り合い、共有し、アクションへ変化させる中から、意見反映の精神を育むこと。その日常の丁寧さと愛おしさが、大きな遠い未来への楽観性の根拠となり、明るさや楽しさの原動力となる。
意見反映とは、小さな声の輝きが、協同労働を通じて美しく組織と社会に反射し輝くこと。協同労働によって、働くことの輝きを世の光に。
2023年10月1日
協同労働の日に