特別鼎談 伊藤亜紗さん・藤原辰史さん・古村伸宏さん 労協法で面白い時代が始まる
施行から2年目に入った労働者協同組合法。70を超える多様な法人が設立されていますが、この法律や協同労働の可能性を別な視点から探ろうと、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授の伊藤亜紗さん、京都大学人文科学研究所准教授の藤原(ふじはら)辰史さん、ワーカーズコープ連合会理事長の古村伸宏さんが語り合いました。大要です。(1月26日、東京池袋・ワーカーズコープ連合会本部にて。本文中敬称略。本紙 炭谷)




会議のあり方
安心してボケとツッコミができるか
「山火事と消防士」の関係
古村 労働者協同組合法の中で、「意見反映」原則が注目されていますが、伊藤さんは、雑誌「ちゃぶ台」(ミシマ社発行)の「会議の研究」という連載で、私たちワーカーズコープの事業所の会議についても取り上げていますね。
伊藤 ワーカーズコープの事業・運動は、その価値を信じている人たちの善意によって支えられがちなのではという問いを以前から立てていました。
もちろんそれは素晴らしいことです。しかし、サステナブル(持続可能な)な運営を考えると、属人性に頼っているだけでは、出口のない疲れ=疲弊への道につながります。
ワーカーズコープの仕組みと属人的な部分がどのように組み合わさっているのかに興味を持って、2カ所の定例会議(団会議)に参加させてもらいました。

1カ所では、ある新規事業をやるかやらないかを討議していました。すっかりやる気の「燃えている人」がいたのですが、一方で冷静にこの事業のリスクを挙げてホースで水を浴びせるような、「消防士役の人」がいた。
提案者のやる気をくじく冷や水論者はどの会議にもいますが、他の会議と異なるのは、お互いがこの対立構造をなかば意識的に演じていたということ。
本人たちは「山火事と消防士」とお互いの関係を例えていましたが、そのやりとりも感情的なものではなく、お互いの信頼の上に成り立つ漫才の掛け合いのような感じでした。新規事業については継続的に検討することになりましたが、会議の中では絶えず、「自分たちは何のために仕事をしているのか」を確認する場面もありました。組織の仕組みと、お互いの関係性の中で属人的な能力がうまく引き出される場面を見せてもらいました。
藤原 私は島根出身ですが、京都の大学に入って一番衝撃だったのが関西の「ボケとツッコミ」の文化でした。
「山火事と消防士」の比喩と同様、安心してボケとツッコミができる空間であるかどうかが、会議では重要な気がします。
大学の同僚に頼まれ、偉い人たちが出る会議に代理出席したことがあります。私は意見を言いたくて意気込んで臨んだのですが、議長は私の発言をことごとく「一つの意見として承りました。では次に」と。何を発言しても全部ブラックホールに飲み込まれていくような感じでした。
古村 私たちの中でも、「所長の言うことだから」みたいな意識や関係性があると、ボケとツッコミの関係は難しい。
「あの人の面白いところは何か」を知ろうと意識すると、会議の場もほどけ、仲間の見え方も変わってくるかもしれませんね。
藤原 会議の多くは目的が決まっていて、それに向かって、いかに効率的に議論を積み重ねていくのかに力が注がれます。
でも、いかに会議を面白いものにするのか、裏目標みたいなのがある方が、逆に決定事項が自然と混乱なく決まるのでは。
古村 私たちは「自分の事業所・現場のことは仲間と話し合いで決めます」って言っていますが、話し合って決めたという実感がどれぐらいあるのかが気になっています。
強いリーダーによって職場コミュニティが形成されていると、「あの人が言ってるんだから」と、そこで思考を止めてしまう感じは結構あるかもしれません。
伊藤 それぞれの立場の違いをわかった上で、みんなが合意できる場所を探し当て、「納得」できることが結構大事。意見が食い違っている時に、みんなが8割方同意できるポイントを探す。腹八分目みたいなイメージです。
労協法の「意見反映」は、組合員が意見を述べることを主眼にしている気がしますが、話し合いの中で、押すことと引くことの両方をやるような部分が、すごく大事な気がします。
意見が変わるのが心地よい
藤原 会議に参加してると、人の意見が変わっていく場面を何回か経験しました。それがすごく心地良い。周りから「あなたはこうしなさい」と強制されるのではなく、自分自身の気づきの中から、話し合いを通じていつの間にか意見が変わっていくのが面白い。
私はドイツ現代史も研究領域なので、会議というと、ナチスと政府高官が「ユダヤ人問題の最終的解決」について話し合った、ヴァンゼー会議のイメージがあるんです。
出席者はみんな発言の機会も与えられるし、穏やかで譲歩もする。会議としては理想的なのですが、この会議が気持ち悪いのは、ヒトラーが下した「ユダヤ人の大量虐殺」という大目標を、各々がどのように役割分担するのかという目的で開かれたということです。
労働者協同組合でも、ヴァンゼー会議のようになってしまうことはないか、そこを心配しています。
仮説立て・実践・検証する会議に
古村 確かに結論がはっきりしていて、担保するために話し合いをして、「はい、意見反映しました」というのはありうる話です。
一方で、労働者協同組合では、自分たちで決定したことを実行するのも自分たちです。みんなで決定したことを実際にやって、その結果をきちんと評価し、総括する。
そう考えると、会議で決めているのは、ある意味、仮説と言えるかもしれません。仮説を立てて実際にやってみて、このことをきちんと会議で検証する。
伊藤 そういう意味では、会議に参加している人だけで何かを決めているわけではない。極論かもしれませんが、むしろ会議では「何も決まらないべき」なのかもしれません。
ワーカーズコープは地域や利用者さんのために事業・運動をしているのですから、みなさんの実践を、その地域や利用者さんが評価する仕組みが必要では。
「労働」の概念
「はたらく」から「はたらき」へ
「労働」が人を排除してきた
藤原 ドイツ語の文献を読んでいると、アルバイト(労働)という言葉がたくさん出てくるのですが、ナチスの正式名称「国民社会主義ドイツ労働者党」にもアルバイター(労働者)って言葉が入っています。
アウシュヴィッツをはじめ、ナチスの強制収容所にはすべて、「労働は人を自由にする」という言葉が門に掲げられています。労働することで思想犯やLGBTQ、ユダヤ人も自由になるっていうスローガンで、一見良さげですよね。
でも、ナチスは働ける人と働けない人、健康な人とそうでない人など、常に人を労働力として選別して、働くことに困難がある障害者は国のお荷物として、強制的に安楽死させたり餓死させたりしながら排除したのです。
労働という言葉は長らく人を排除していました。私は労働という概念を定義し直す必要があると考えています。
古村 以前、藤原さんは、「『はたらく』という言葉を『はたらき』に置き換えたらいいのでは」と話していました。「はたらき」の方が、その人の存在そのものを大切にしている気がします。
藤原 「働かざる者食うべからず」を中心に据えれば、こぼれ落ちてしまう人がいっぱいいるし、労働という概念が障害のある人たちの価値を貶(おとし)めてきました。
職場をコミュニティととらえれば、そこにいるだけでも「はたらき」です。
労働者協同組合は、実は「はたらき協同組合」。それぞれの組合員のはたらきが、みんなの意見反映の中で認められるような、労働の概念自体を変えていく組織であってほしい。
ワーカーズコープの中心とは?
伊藤 「はたらく」から「はたらき」へ。面白いですね。
人が集まったり、働くには、対象や中心の存在があります。
例えば、佐賀の松隈(まつくま)という地域では、集落の人たちが出資して農業用水路で小水力発電を行う会社を立ち上げ事業を行っています。
仕組みは労働者協同組合と似ていますが、用水路の管理が楽になった上に、売電収入で新しいことができるようになった。用水路を中心にしたコミュニティが形成され、集落の維持にもつながっています。
こう考えた時に、協同労働の中心にあるものは何だろうかと、気になります。
古村 ワーカーズコープの中心は、多分、「私」… かな。
それぞれの職場に「私」という存在があって、その私のまとまり(私たち)が持つ力が、ワーカーズコープの中心というイメージ。
伊藤 すみません、古村さんの説明は正直、あんまり自分の中に落ちてなくて…。
「私」と言われましたが、学生に一番言ってはいけないのが、「あなたが本当にやりたいことは何?」というフレーズ。これを言うと、どんどん学生が潰れていく。「あなたには何もない」と、責められているように受け取る学生が多いんです。
古村 「ワーカーズコープにいるんだから、自分がやりたいことをきちんと持っていますよね、明確にしていますよね」ということを求めているわけではありません。
清掃でも介護、子育て支援でも、とにかく目の前の仕事をまずやってみるだけでも、「意外と面白い」「やっぱり向いてない」「もっと深めたい」とか、自分の中に眠っている、別の自分に気づいていくのを助け合って引き出すようなイメージです。
先ほどの「自分の意見が変わっていく」に近いかな。
伊藤 何となくわかった気がしました。
以前聞いた、ある疾患からの回復のプロセスを思い出したのですが、自分はこういう人間だと思い込んでいたのが、何かのきっかけで違う自分を発見したときに回復に向かう。そのプロセスも、それまでの自分にとって盲点だった部分に出会ったり、その疾患とは一見無関係なことが要因になって起こるんです。
古村 そういう感性は、学校に限らず子どもの頃にどういう学びや体験をしてきたのかが重要だと思います。
ワーカーズコープでは、子どもに関係する事業が多いのですが、可能性を感じる一方で、今の社会規範や自治体のルールに従ってやっているだけでは、本来私たちが目指している子どもの育ちに矛盾や軋轢(あつれき)が生まれていくだろうと感じています。
そこを突き抜けた現場は、働いてる人も子どもたちもすごくいきいきしていますし、地域からもいろんな人たちが関わるようになっています。
藤原 伊藤さんの話に衝撃を受けました。私も学生につい言ってしまうのですが、「あなたの本当にやりたいことは何?」って聞くことで、その人の可能性をむしろ狭めている。
人は往々にして確固とした自分を持って生きてるわけではなく、むしろ、「未遂」と「未然」の塊みたいな存在であるのに、つい「あれしなさい」「これやって」って、ロール(役割)をプレイ(演じる)することを強いてしまいます。
自分の居場所が見出せなかったり、確固たる自分を見出せなくても、「ここにいてもいい」「いさせてもらえる」と思える場所がすごく大事だと思うんです。
「あなたはこうあるべきだ」「みんな、頑張ろう」ではなく、そこにいるだけでも、「はたらき」があるような場所を社会に広げることも、労働者協同組合の意義だと思います。
パンチはどこに
社会・地域・さまざまな産業に
既存の組織にもパンチがある
伊藤 古村さんが理想とするワーカーズコープとは?
古村 わかりやすい例でいうと、昨年夏の甲子園で優勝した慶応高校野球部みたいな感じです。面白そうだからやってみよう、でもつまずいた、みたいなことを繰り返す集団ですかね。
人が一定数集まれば合う合わないも出てきます。20年ぐらい前までは、「一致団結して頑張ろう」的なイメージはすごく強かったんですが、普段は一致はしなくても、いざという時は団結して、協力し合うみたいな感じ。といっても、仕事には仕様やルールなどの決まりごとがあり、その品質も当然保たなければいけませんので、バラバラでは困りますが。
藤原 今、企業は新しい方向性が生み出せず、労働者も苦しんでいます。なにより、変わることをみんなすごく恐れています。
地域創生に取り組んでいる知り合いがいて、よく企業で話す機会があるそうです。彼が一番不満なのは、今の企業は、リスクマネージメントをリスクカットとしかとらえていないこと。結局「これはしない」「あれもしない」と、リスクを全部カットして、「一番安全な現状維持で」という答えが返ってくるそうです。
新しいことにチャレンジするには「駄目だったらしょうがないよね」ぐらいの空気がないとできませんが、今の日本企業は規模が大きくなるほど、リスクマネジメントはリスクカットでしかない。
労働者協同組合が増えていくことは、社会や地域に対してだけではなく、既存の組織に対しても、ものすごくパンチがあることです。
私は、労協法や労働者協同組合の理念が知られるようになり、企業や教育機関がこの仕組みを活用するようになったら、社会が面白くなると思っています。
古村 教育、医療、農業、この3つが、ちょっと時間がかかるでしょうけど、労働者協同組合という仕組みがもたらす影響と可能性が大きい分野だと思っています。
医療は千葉県が歯科医の労働者協同組合を認可しました。学校法人も認められない理由はないでしょう。
農業でも間違いなく広がります。広島では協同労働で援農活動をする人たちもいますが、構成員はほとんど農協の組合員の方です。農家じゃない人が農業に関わるツールとして労協法人を活用する事例も出てくるでしょう。
これまでとは違う労働、はたらきを求める人が増えています。労協法の施行で一番想定外だったのは、副業として立ち上げる人たちが多いことでした。その意味で、この法律によって面白い時代が始まることを、私たちも期待しています。
伊藤 近々調査にいくのですが、インドネシアには、集団アートとして相互扶助や社会問題の解決に取り組んでいる人たちがいます。話を聞いていて、協同労働の特徴と重なる気がしました。
古村 アートというと、個人的な営みと思い込みがちですが、そこに協同労働が入ると双方にとっても新しい可能性が開けそうですね。
「あそび」の部分をどうつくるのか
伊藤 私は、みなさんの活動の中に、「あそび」の部分をどうつくっていくのかということにすごく期待しています。
「あそび」とは、ある意味で道から外れること。リスクも伴いますが、リスクを見ないようにしたり、カットしたりするのではなく、いかにリスクを小さくするのかというリアリズムも必要です。そこがないと多分、みんなついていけなくなるでしょう。
古村 私たちは競争の原理で仕事をするより、協同でやった方が本当の意味での仕事の質が高くなるはずだという仮説でこれまでやってきました。
完全に証明できたとは思いませんけど、いくつか確信できるような事実も出ています。
法律ができた労働者協同組合の真髄が、社会に伝わってほしいと思います。
本日はありがとうございました。
※ 対談の詳細は、協同総合研究所の所報「協同の発見」2月号に掲載しています。
※ 伊藤亜紗さん、藤原辰史さんを始め、広井良典さん(京都大学教授)、斎藤幸平さん(東京大学准教授)、 小野りりあんさん(モデル)と、古村理事長との対談をまとめた書籍が、㈱コトノネ生活から刊行されます(初夏予定)。