医療と生活を切れ目なくつなぐ にじいろ訪問看護ステーション多摩 東京・多摩市で開所 精神科の訪問看護 センター事業団初
東京都多摩市で労協ワーカーズコープ・センター事業団「にじいろ訪問看護ステーション多摩」が8月に開所しました。センター事業団としては訪問看護で2カ所目、精神科では初めて。
所長の市川さんは昨年1月にセンター事業団に入団、東京北部事業本部で休職者フォローなどを行ってきました。
「医療と生活を切れ目なくつなぐ仕組みが必要。ニーズは高い事業なので、立ち上げを成功させ、協同労働による精神科訪問看護を全国に広げたい」と意欲を語っています。
医療と生活つなぎ、生きづらさ抱える人が自分らしく暮らせる地域に
多摩市内にある事務所を訪ね、設立メンバーの市川所長、若澤さん、佐野さんに立ち上げの経緯や抱負を聞きました。(本紙 炭谷)
訪問看護は、主治医の指示や医療機関との連携のもとで提供され、精神疾患のある人や子ども、障害のある人など、年齢や症状を問わず利用できます。しかし、多くは高齢者の支援が中心で、精神科に特化した事業所はまだ少ないのが現状です。
所長の市川さんは、「精神疾患や、生きづらさを抱える人たちが病院という管理された環境から地域での生活に移行する際には、服薬管理や生活リズムの調整、再発防止の支援など専門的な関わりが欠かせないし、家族関係や仕事、金銭など生活面での課題にも直面する。こうした人たちが地域で自分らしく暮らしていくためには、医療と生活を切れ目なくつなぐ仕組みが必要。ワーカーズが精神科訪問看護に取り組む意義はそこにあると思う」と話します。
一般企業勤務を経て看護師に
市川さんは、もともと一般企業の総務・経理部門に勤務していましたが、社員のメンタルヘルスに課題を感じて退職し、看護専門学校に入学。30歳で看護師資格を取得後、精神科病院や保育園で経験を重ね、地域福祉に関わろうと埼玉県内の市社会福祉協議会に入職しました。
社協では民生委員・児童委員協議会や地区社協事務局、生活支援体制整備事業の第2層コーディネーターを担当しましたが、行政方針や予算に縛られ、地域の声を十分に反映できず限界を感じ、24年1月、センター事業団の首都圏事務局員として入団。東京北部事業本部で休職者フォローや復職支援、週1〜2回保育園で園児の健康管理と保育士のサポートなどを行ってきました。
そんな市川さんが立ち上げを意識したきっかけは、事業本部でのある会議でした。
23年に発覚したセンター事業団の不適正報告事案の影響で、不備がないにも関わらず契約更新ができない指定管理者や委託現場が出てくる中で、会議では「今の指定管理者や委託中心の事業構造では、更新などができなければ組合員の働く場が一気になくなる。だからこそ自前の事業を育てよう」との方針が示され、市川さんも共感したといいます。
「いろんな指定管理者や委託の現場を回る中で、みんな一生懸命に働いているのに金銭的に厳しい状況にあったり、行政によって委託金額に大きな差があったりする現状を見て、やはり自前事業を伸ばす必要があると感じた」
では、自分が立ち上げるとしたら… 市川さんの頭に浮かんだのは、経験を積み、関心を寄せてきた精神科の分野でした。
「精神の人は、薬の調整や関わり方次第で安定して地域で暮らせる人が多い。病院勤務時代は退院後の生活を見守れず、本人も不安を抱えたまま地域に戻るケースも少なくなかった。だからこそ訪問看護でしっかりと地域につなぎ、安心して暮らせるよう支えたい」
こうした思いから、市川さんは精神科に特化した訪問看護ステーションの立ち上げを決意します。昨年8月のことです。

専門職の協同労働突き詰める
「この事業を全国のモデルにしたい」
市川さんはさっそく、病院勤務時代の同僚、若澤さんに声をかけます。
若澤さんは「当時、訪問看護事業所に勤務していた。地域で困っている人や支援が届きにくい人の存在を目の当たりにしてきたが、ワーカーズなら利用者が求める支援を提供できると思った」。
若澤さんから誘われメンバーになった佐野さんも、市川さんや若澤さんの元同僚。精神科病棟を経て療養型施設に勤める中で、退院後の患者の生活環境に不安を抱いていたといいます。
「最初は説明を聞いてもワーカーズのことは、正直よくわからなかったが、訪問看護なら、困難を抱える人を地域につなぐ支援ができると思い参加を決めた」と振り返ります。
開設準備を進める中、本部や事業本部からは地域との関係性や事業の採算性を指摘され、気持ちが揺らぐこともありましたが、市川さんは「精神科訪問看護事業を軌道に乗せ、全国のモデルをつくりたい」という思いで進めました。
当初は東京北部所轄の杉並区での立ち上げを検討していましたが、3人が以前勤務していた病院があり土地勘もあること、さらに精神科病院や医療機関が多い地域性から、多摩市に拠点を置くことに。
事務所費用や医療機材、電子カルテなどの初期費用を賄うために増資を呼びかけたところ、東京北部や三多摩山梨、中央の各事業本部の組合員から約300万円近くが集まりました。
社会連帯で居場所づくりにも
開所以来、市川さんたちは病院などへの営業を精力的に行っており、先日、初の利用者が確定。「最も連携を深めたい病院からで、とても良いスタートが切れた。一人ひとりの利用者に真摯に向き合っていきたい」と意気込んでいます。
さらに、「ワーカーズには仕事を起こすための基盤があり、軌道に乗るまで伴走してくれる安心感がある。看護師という専門職は、経験豊富なベテランも新人もそれぞれ良さがあり、互いに補い合いながら支え合うことが重要。その意味で、1人1票で話し合いながら意思決定する協同労働の仕組みは、専門職にこそ突き詰める価値があると思っている」と話します。
今後の抱負について若澤さんは、「自分に合っていない作業所に行っている人もいるし、家では孤独を感じている人も大勢見てきた。そういう人たちが気楽に過ごせる居場所ができれば」。
佐野さんも「社会連帯活動で、子どもから高齢者まで誰でも楽しく参加できる場所をやってみたい」と笑顔で。
東京三多摩山梨事業本部の扶蘓文重本部長は「自分たちの納得のいくケアを協同労働という形で追求しつつ、他の子育てや介護の現場とも連携を深め、地域の多様なニーズに応えてほしい」と期待を寄せています。